本記事では、設定のテーマ(問題)に関し、弁護士による考察内容を、ごく簡単にご紹介いたします。法務の参考に、ぜひご覧ください。
- 漫画のキャラクター像の権利関係
- 上記キャラクター像が写り込んだ動画等のアップロードと権利関係(著作権侵害のおそれ)
- 上記アップロードが著作権侵害とならない3つの場合
- 上記アップロードに関する法務のチェックポイント
今回のテーマ
屋外に設置された漫画のキャラクター像が写り込んだ動画や画像(以下「写り込み動画等」)をインターネット上にアップロードして良いか?
今回はこの問題について、考えてみましょう。
権利関係(著作権侵害のおそれ)
漫画のキャラクター像には、どのような権利者が想定されますか?
権利者としては、当該キャラクター像を制作した人(以下「彫刻家」)と、当該キャラクター像の元となる絵柄を制作した人(以下「漫画家」)の二人が登場しそうですね。
漫画のキャラクター像は、絵柄を原著作物とする二次的著作物と考えられますので、彫刻家は、二次的著作物の著作者として当該キャラクター像の著作権を有することになるでしょう。
他方、漫画家も、原著作物(絵柄)の著作者として当該キャラクター像につき権利を有することになるでしょう。
写り込み動画等をアップすると、そのような権利者たちから、どのような主張を受けるおそれがあるのでしょうか?
著作権侵害とならない3つの場合
そのような主張に対して、何か反論はできないでしょうか?
主として、①「付随対象著作物の利用」、②「公開の美術の著作物等の利用」、③「許諾に基づく利用」の三つの反論が考えられますね。
反論①:付随対象著作物の利用
①「付随対象著作物の利用」は、どのような反論ですか?
簡単に言うと、少し写り込んだだけなので、問題はないといった反論です。写り込んだ当該キャラクター像の映像部分が〈軽微な構成部分〉にすぎないのであれば、著作権者の利益を不当に害しない限り、〈正当な範囲内〉で利用することができるため(著作権法30条の2)、著作権侵害は成立しません。
〈軽微な構成部分〉かどうか、あるいは、〈正当な範囲内〉かどうか、どのように判断すればよいのでしょうか?
事案に応じ、社会通念に基づく判断となりますが、全体を占める割合が低ければ低いほど、あるいは、再製の精度が低ければ低いほど(ぼんやりとしているほど)、写り込んだ当該キャラクター像の映像部分が〈軽微な構成部分〉であると言いやすくなるでしょう。
また、当該映像部分で利益を得る目的がないほうが〈正当な範囲内〉の利用と言いやすいでしょうし、当該映像部分が当該写り込み動画等において果たす役割が小さければ小さいほど、あるいは、当該映像部分を分離するのが難しければ難しいほど、〈正当な範囲内〉の利用と言いやすくなるでしょう。
反論②:公開の美術の著作物等の利用
②「公開の美術の著作物等の利用」は、どのような反論ですか?
写り込んでいる当該キャラクター像が「原作品」ではなく、原作品を元に制作された「複製物(レプリカ)」である場合、そのような反論はできないのですか?
はい。そのため、この反論をするためには、当該キャラクター像が「原作品」かどうか、調査する必要があるでしょう。
反論③:許諾に基づく利用
③「許諾」は、どのような反論ですか?
当然といえば、当然ですが、権利者から許諾を得ていれば、問題にはなりませんよね(著作権法63条)。
コンサバですが、コンプライアンスに万全を期すのであれば、写り込み動画等のアップ前に、写り込んだ当該キャラクター像の権利者にコンタクトをとって許諾を得ること、もっと言うと、後で揉めないように許諾の内容や条件などを書面にして取り交わしておくことが望ましいでしょう。
権利者が当該キャラクター像の利用についてルールを公表している場合、許諾があることになるのでしょうか?
そのような場合、当該ルールの範囲内で利用する分には、権利者の許諾があると考えられます。
ただし、証拠がなければ反論ができませんので、そのようなルールが公表されているウェブページを、〈URL〉と〈日付〉を印字する形でプリントアウトしたり、PDFデータにしたりして、あらかじめ保存しておくのがよいでしょう。
法務のチェックポイント
さて、以上の考察から、写り込み動画等のアップは、当該キャラクター像の著作権を侵害するおそれがあるため、上記のような反論ができない限り、これを見合わせるべきと言えそうですね。
最後に、以上を踏まえた法務のチェックポイントをまとめておきます。
- 付随対象著作物の利用として著作権侵害が否定されないか、リスクを検討
- 写り込みの程度等を確認
- 公開の美術の著作物等の利用として著作権侵害が否定されないか、リスクを検討
- 「原作品」かどうか、調査・確認
- 著作権法46条各号に掲げる場合に該当しないかどうか、確認
- 許諾に基づく利用として著作権侵害が否定されないか、リスクを検討
- 権利者がウェブサイトなどで利用に関するルールを公表していないかどうか、調査・確認
- 公表されたルールの範囲内の利用かどうか、確認
- URL及び日付が印字されるようにして当該ルール(ウェブページ)を保存
- 万全を期すのであれば、権利者を調査し、許諾契約の締結等を検討
以 上
引用法令
著作権法(昭和45年法律第48号)抄
(複製権)〔→引用先に戻る〕
第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)抄
(公衆送信権等)〔→引用先に戻る〕
第23条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)抄
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)〔→引用先に戻る〕
第28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)抄
(付随対象著作物の利用)〔→引用先に戻る〕
第30条の2 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)抄
(公開の美術の著作物等の利用)〔→引用先に戻る〕
第46条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)抄
(著作物の利用の許諾)〔→引用先に戻る〕
第63条 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。
3〜5 略
6 著作物の送信可能化について第一項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第二十三条第一項の規定は、適用しない。